パートやアルバイトを取り巻く労働環境が大きく変わるかもしれません。
厚生労働省は、会社員に扶養されるパートら短時間労働者が厚生年金に加入する年収要件(106万円以上)を撤廃する方向で最終調整に入りました。
この変更によって、社会保険への加入義務が拡大され、多くの労働者に影響が及ぶことになります。
本記事では、この制度変更の背景や影響について詳しく解説します。
玉木雄一郎氏が主張する「103万円の壁」の引き上げに対して、厚生労働省が「106万円の壁」を週20時間の労働時間に基づく新たな基準に変更する動きが、主婦層やパートタイム労働者に大きな影響を与えることが懸念されています。
この状況について詳しく見ていきましょう。
Contents
1. はじめに
「106万円の壁」とは何か
「106万円の壁」とは、従業員が社会保険(厚生年金や健康保険)に加入する際の年収基準のことです。
特にパートやアルバイトとして働く方が、この基準を超えると健康保険や年金保険の加入が義務付けられ、社会保険料が自らの給与から天引きされるようになります。
従来の基準では「130万円の壁」として知られていましたが、一定の条件下で年収106万円以上になると適用されるように変わってきました。
「週20時間の壁」とは何か
「週20時間の壁」とは、2024年10月以降に新たに適用されるとされる基準で、パート労働者などの週の勤務時間が20時間を超えると、収入に関係なく社会保険への加入が義務化される制度です。
これにより、年収を抑えて働いていたパートタイムの労働者も新たに社会保険の対象となり、社会保険料の負担が増える可能性があります。
なぜこれらの改正が議論されるのか
日本は少子高齢化に伴い、年金制度や医療制度の持続可能性が問題視されています。
厚生労働省は、労働者数の拡大と安定した保険料収入を確保するために、この「106万円の壁」撤廃や「週20時間の壁」新設を進めているとみられます。
経済面での負担は増えるものの、パートタイム労働者にも社会保険のメリットを享受させる目的もあります。
ここから、次に「106万円の壁」撤廃の詳細について解説します。
2. 「106万円の壁」撤廃の詳細
現行制度の概要
現在の制度では、パートやアルバイトなど非正規雇用の労働者が社会保険に加入するには、いくつかの条件を満たす必要があります。
その条件の一つが「106万円の壁」であり、従業員の年収が106万円以上であることが基準の一つです。
さらに、この基準の対象となるのは、勤務先の従業員が501人以上の企業で働く労働者です。
具体的には、次の条件をすべて満たす場合に社会保険加入が義務付けられています:
- 週の勤務時間が20時間以上であること
- 1ヶ月あたりの賃金が88,000円(年収106万円相当)以上であること
- 勤務期間が1年以上見込まれること
- 学生ではないこと
撤廃による変更点
厚生労働省は、この「106万円の壁」を撤廃し、ほぼすべての労働者が社会保険に加入するような仕組みへ移行する方針です。
この撤廃により、年収106万円未満の収入で働いている人も含めて、一定条件を満たせば社会保険に強制的に加入することが求められる可能性が出てきました。
また、従来は501人以上の企業に勤めている労働者のみが対象でしたが、より規模の小さな企業でも適用されるようになると予想されています。
こうした変更は、フルタイムで働いていない短時間労働者にも社会保険の保障を提供し、少子高齢化のなかで保険制度の安定性を高める狙いがあります。
しかし一方で、労働者は社会保険料の負担増に直面する可能性が高くなり、「収入を増やしても手取りがあまり変わらない」という問題が生じる可能性があります。
労働者への影響
この「106万円の壁」撤廃により、多くのパート・アルバイト労働者は収入にかかわらず社会保険に加入しなければならなくなります。
その結果、厚生年金や健康保険の保険料が天引きされ、手取り収入が減少する可能性が考えられます。
一方で、社会保険に加入することにより、将来的な年金受給額の増加や医療費の軽減などのメリットもあります。
しかし、短時間労働を望む主婦や学生などのパートタイム労働者にとっては、働き方の自由が制限される一面もあり、働く時間や収入を抑えていた人々にとっては生活スタイルの変更を迫られるかもしれません。
次は「週20時間の壁」新設について詳しく説明します。
3. 「週20時間の壁」新設の詳細
新設される制度の概要
導入予定の「週20時間の壁」は、労働時間に着目して、週20時間以上働くすべての非正規雇用者を社会保険の適用対象とする新しい基準です。
従来の制度では年収や企業の規模などが重要な判断基準とされていましたが、今度は年収にかかわらず「週20時間」という労働時間が加入条件となります。
これは特に、短時間のパートやアルバイトで働く人々に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
適用対象となる労働者
この「週20時間の壁」の導入により、年収が106万円以下であっても、週20時間以上働く人は社会保険への加入が義務化されます。
具体的には、以下のような条件に該当する労働者が対象となります:
- 週の勤務時間が20時間以上であること
- 1ヶ月の契約が継続して存在すること
- 学生でないこと
この新たな条件の適用対象は、従来の「106万円の壁」よりも広範囲にわたるため、比較的小規模な企業で働くパートや、家計を助けるために短時間働く主婦、収入を調整していた高齢者など、多くの非正規労働者が影響を受ける可能性があります。
労働者への影響
新たな基準の導入により、パートやアルバイトでの収入を制限していた人々にとって、労働時間を週20時間未満に抑えることで社会保険料の負担を回避するか、あるいは加入の義務化に従うことで保険料を支払う選択が求められることになります。
この「週20時間の壁」は、従来の「106万円の壁」と異なり、年収に関係なく社会保険の適用が強制されるため、特に年収が比較的低い労働者にとって負担感が強まる可能性があります。
また、学生を除くすべての労働者が対象であるため、主婦や高齢者などのパートタイム労働者も、時間を減らすか社会保険料の支払いを受け入れるかという判断が迫られることになります。
結果として、短時間労働者に対して、「働きすぎると負担が増える」という新たな壁が生まれ、働き方の選択肢が狭められる可能性が懸念されています。
4. 企業側の対応と課題
社会保険料負担の増加
「106万円の壁」撤廃と「週20時間の壁」新設は、労働者だけでなく、企業側にも影響を与えます。
特に中小企業にとっては、これまで社会保険の適用対象外であった短時間労働者にも保険料の負担が必要となり、コストが増加することになります。
社会保険料は企業と労働者の両方で負担される仕組みですが、企業負担分も増えるため、特に労働力が少ない中小企業にとっては経済的な負担が増すと予測されます。
人事・労務管理の見直し
これらの新基準の導入に伴い、企業は短時間労働者に対する人事・労務管理の見直しを迫られます。
新たに社会保険の適用対象となる労働者の情報管理や手続きが必要になるため、事務負担が増加します。
さらに、労働時間を抑えたい労働者の要望に応じて、週20時間未満の勤務シフトを組む工夫が求められるケースも出てくるでしょう。
これにより、企業がこれまでの運営方針や人員配置を再考する必要が生じ、運営効率の低下が懸念されています。
中小企業への影響
特に中小企業にとっては、新制度導入によるコスト増と管理負担が企業経営の圧力となる可能性があります。
中小企業は多くの場合、従業員の福利厚生費用を抑えることで経営を支えていますが、これらの基準がすべての労働者に適用されることで、コストが大幅に増加する恐れがあります。
そのため、採用計画や従業員の労働時間管理に対して新たな戦略を検討しなければならず、場合によってはパートタイム雇用の縮小や契約内容の変更を考える企業も増えるかもしれません。
このように、企業側にはコスト面や管理面での大きな負担が予想されます。
企業がこれらの課題にどう対応するかが、短時間労働者の雇用環境や今後の労働市場の状況に影響を及ぼす可能性があるでしょう。
次の章では、労働者が取るべき対策について解説します。
5. 労働者が取るべき対策
収入と労働時間のバランス調整
「週20時間の壁」の新設と「106万円の壁」撤廃に伴い、短時間で働くことを望む労働者は収入と労働時間のバランスを見直す必要があります。
例えば、これまで年収106万円以下や週20時間未満に抑えていた人は、新しい基準により社会保険への加入が義務付けられるかもしれません。
このため、手取り収入を確保するために、週の労働時間を20時間未満に減らす、あるいは、思い切って労働時間を増やして収入の増加を図るといった選択肢を考慮する必要があります。
社会保険加入のメリットとデメリットの理解
新基準によって社会保険加入が義務付けられる場合でも、長期的な視点で見ると、社会保険加入にはメリットもあります。
例えば、厚生年金に加入することで、将来的な年金受給額が増え、老後の生活が安定する可能性が高まります。
また、健康保険の被保険者となることで、高額医療費の負担が軽減される制度や、出産手当金、育児休業給付金などの福利厚生を受けることもできます。
一方で、毎月の保険料が給与から天引きされるため、手取り収入は減少するため、この点はデメリットと言えます。
キャリアプランの再検討
短時間勤務を望む主婦や高齢者にとっては、これを機にキャリアプランや働き方を再検討する機会にもなります。
例えば、フルタイムでの就業を検討し、安定した収入と社会保険加入のメリットを享受する選択肢を考える人もいるでしょう。
また、長期的なキャリア形成を見据え、パートから正社員を目指すようなキャリアチェンジも視野に入れるべきです。
さらに、副業やスキルアップなど、新しい収入源を得るための準備も重要です。
このように、制度変更に合わせて自身の働き方を見直し、長期的なメリットを意識した計画を立てることが労働者にとっての重要な対策となります。
次の章では、国民民主党の主張する「103万円の壁」との関係について掘り下げます。
6. 国民民主党の主張する「103万円の壁」との関係は?
政府・与党が検討している「103万円の壁」の見直しと、厚生年金の「106万円の壁」撤廃の関係について説明します。
「103万円の壁」とは?
「103万円の壁」は、所得税が発生する年収ラインです。
給与所得者は、基礎控除48万円と給与所得控除55万円を合わせた103万円までは所得税がかからないため、多くのパートやアルバイト労働者がこのラインを意識して働いています。
これを超えると、所得税が発生するため、手取りが減少する可能性があります。国民民主党は、この「103万円の壁」を178万円まで引き上げることを提案しています。
これは、最低賃金の上昇に伴い、実質的な生活水準を維持しつつ、労働者がより自由に働けるようにするためです。
「106万円の壁」とは?
一方、「106万円の壁」は、社会保険(健康保険や厚生年金)の加入義務が発生する年収ラインです。
現在、従業員数51人以上の企業で週20時間以上働き、年収が106万円を超えると社会保険に加入しなければならず、その結果として手取り収入が減少することがあります。
この「106万円の壁」が撤廃される予定であり、年収にかかわらず週20時間以上働く労働者は社会保険に強制加入されることになります。
これにより、新たに約200万人が社会保険に加入すると見込まれています。
両者の関係と課題
政府・与党は、「103万円の壁」の引き上げを検討しており、これにより所得税負担を軽減しようとしています。
しかし、「106万円の壁」が撤廃されることで、多くの労働者が社会保険料を負担することになり、結果として手取り収入が減少する可能性があります。
そのため、「103万円の壁」を引き上げても、「106万円の壁」やその他の社会保険料負担によって労働者への負担増加は避けられないという懸念があります。
特に最低賃金が上昇している地域では、週20時間以上働くことで年収106万円を超えるケースが増えており、厚生労働省はこの実態を踏まえて「106万円の壁」の撤廃を決定しました。
今後、この変更により労働者がどれだけ自由に働けるか、また手取り収入への影響がどれほど出るかについては注目されています。
7. まとめ:新しいルールへの適応が求められる時代へ
「106万円の壁」撤廃と「週20時間の壁」新設は、多くのパート・アルバイト労働者やその雇用主に大きな影響を与える重要な法改正です。
短時間労働者も老後の生活保障を充実させるためには、このような制度変更は避けて通れない道ですが、一方で手取り収入減少や企業側のコスト増加といった課題も残ります。
これからは、新しいルールに適応しつつ、自分自身や会社にとって最適な働き方や対応策を見つけていくことが重要です。