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【考古学界を二分する】『ストーンヘンジの新説』についてTwitterの反応
南部にある先史時代の遺跡、ストーンヘンジ。ユネスコの世界文化遺産である先史時代の環状列石を、いったい誰が築いたのか。
いまだに多くの謎を秘めており、多くの研究者たちがその解明に取り組んでいる。その巨石の起源に新説が登場した。
◇ ◇ ◇
ストーンヘンジの物語が始まる場所としてウェールズが注目されたのは、地質学者のハーバート・トマスのおかげと言っていい。
ストーンヘンジといえば、二つの立石の上に一つの横石を載せた「トリリトン」という建造物が有名だ。
これは「サーセン石」と呼ばれる硬い砂岩でできている。
だが、いくつものトリリトンが馬蹄形(ばていがた)に並んだ構造の内側には、それよりもっと小さい「ブルーストーン」と呼ばれる石が円形に並んでいる。
サーセン石はこの地域に分布するが、ブルーストーンはまったく見られず、明らかに別の地域から運ばれてきた岩石だ。
ブルーストーンの重さは平均1.8トン。
いったいどこから運ばれてきたのか。
この謎を解くきっかけとなったのは、トマスが1923年にその標本に出合ったことだった。
標本のなかにはブルーストーンの一種で、まだら模様のドレライト(粗粒玄武岩)という岩石があった。
トマスは以前、ストーンヘンジから280キロメートルほど離れたペンブロークシャーの「プレセリの丘」を歩いているときに、これと同じ岩石の露頭(岩石が露出した場所)があったことを思い出した。
トマスはその後も調査を続け、ストーンヘンジのブルーストーンはペンブロークシャーにある露頭から採石されたと結論づけた。
そして最近、英ウェールズ国立博物館の地質学者リチャード・ベビンズと英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン付属考古学研究所の地質学者ロブ・イクサーが、「蛍光X線分析法」や「レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法」といった先端技術を使ってトマスの調査結果を検証。
2人はブルーストーンが採石されたプレセリの丘の露頭を4カ所特定した。
生化学の分野でも興味深い発見があった。
ベルギーの研究者クリストフ・スヌークは火葬後の遺灰や遺骨に含まれる元素の同位体を分析し、死者が死ぬまでの10年間どこで暮らしていたかを調べる技術を開発した。
この技術で、ブルーストーンの環状列石が建てられた当時に火葬されてストーンヘンジに埋められた25人の遺骨を分析した結果、その半数近くが遠く離れた地域の出身者であることが判明した。
考古学的な証拠と組み合わせて、彼らの出身地はイングランド南西部のデボン北部かウェールズ南西部ではないかと推定された。
スヌークはまた、遺骨に残された火葬の煙の炭素と酸素の同位体比を分析して、火葬に使われた薪の種類を推定する技術も編み出した。
それにより、一部の遺体はストーンヘンジ周辺の疎林ではなく、うっそうとした森林の樹木を使って火葬されたことがわかり、古代の謎に迫る新たな手がかりがまた一つ得られた。
「ストーンヘンジに埋葬された死者がウェールズ南西部出身だとは断言できません」と話すのは、英オックスフォード大学の考古学教授リック・シュルティングだ。
「ただ、考古学は証拠を積み重ねて過去の出来事を推定する学問です。ブルーストーンがウェールズのプレセリの丘で採石されたことは確かですから、まずはこの地域に着目するのがよいということです」
古い環状列石を再利用?
9月半ば。冷気が肌を刺す早朝、プレセリの丘にある古代遺跡、ワイン・マウンは深い霧に包まれていた。
この遺跡に残っているのは4個の石だけだ。
ここでは、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーで考古学者のマイク・パーカー・ピアソン率いるチームが調査を行っている。
彼らの姿や、つるはし、シャベル、手押し車の影が、霧の中に浮かび上がっていた。
パーカー・ピアソンはユニバーシティ・カレッジ・ロンドン付属考古学研究所に所属する英国の先史時代遺跡の専門家で、仮説を検証するためにここを訪れた。
それは、ストーンヘンジの石はどこか遠くにあった既存の環状列石から持ち出されたものではないか、という仮説だ。
「ストーンヘンジの石が別の地域から運ばれてきたものであることは確かです。グレート・ブリテン島に何百もある環状列石のうち、遠方から運ばれた石が使われているのはストーンヘンジだけです。後はすべて地元の石で造られています」とパーカー・ピアソンは話す。
ワイン・マウンはグレート・ブリテン島で最古級の環状列石の痕跡で、紀元前3300年ごろに建造された。
この場所はストーンヘンジのブルーストーンが切り出されたプレセリの丘の露頭から数キロ圏内に位置している。
ワイン・マウンの環状列石の建造は、3分の1ほど完成したところでなぜか中断されたようだと、パーカー・ピアソンは説明する。
「もっと石を立てるつもりで穴を掘った跡はありますが、そこには石を立てなかった」。
実際に立てられた15個ほどの石のうち、今も立っているのは1個だけ。
3個が草むらに横たわり、残り11個の行方はわからない。
パーカー・ピアソンらは2021年、新説を発表した。
現存するストーンヘンジの石のうち少なくとも一部は、紀元前3000年ごろにウェールズから東方に移動した人々が、ウェールズにあったさらに古い建造物を解体して運んできたものではないか、という説だ。
特にストーンヘンジの標識番号62番の石はワイン・マウンから運ばれた可能性があるという。
穴を掘ったのに、なぜか石を立てなかった
この説が大々的に報道されると、考古学界は二分された。
そもそもワイン・マウンに環状列石があったかどうかも疑わしく、もともと数個の石があっただけではないかと考える学者もいた。そこでパーカー・ピアソンらは証拠を固めるために、再びワイン・マウンを訪れたのだった。
新たに見つかった証拠は興味深いものだった。
ストーンヘンジのブルーストーンのうち、まだら模様のないドレライトは3個しかなく、62番の石はその一つで、ワイン・マウンにも同じ種類の石が使用されていた。
さらに、62番の石の断面は五角形になっている。
その形はワイン・マウンの穴に残された跡と一致するように見えた。
加えて、その穴からは、まだら模様のないドレライトの破片が発見されている。
パーカー・ピアソン率いるチームは再調査で、ワイン・マウンが環状列石だったこと、その大きさはストーンヘンジを囲んだ初期の溝とほぼ同じだったことを示す証拠も手に入れた。
また、ストーンヘンジと同じく、ワイン・マウンの石の配列も夏至の日の出と冬至の日の入りの方向に合わせて設計されていたようだ。
後はワイン・マウンの石とストーンヘンジのブルーストーンが地球化学的に一致することを明示できれば、決定的な根拠となるのだが、残念ながらそれはかなわなかった。
もっとも、完全に一致する石が見つかる可能性が低いことは、探す前からわかっていた。
ストーンヘンジには80個以上のブルーストーンがあったとみられているが、現存するのは43個だけだからというのが理由の一つだ。
ストーンヘンジも、ワイン・マウンも「かつてあった石の一部は失われている」とパーカー・ピアソンは話す。
「それでも、ワイン・マウンで環状列石を造っていた人々が作業を中断したことを示す有力な証拠は見つかりました。彼らはもっと石を立てようとして、穴を掘ったのに、なぜか立てなかった。何が起きたのか。彼らはどこに行き、石はどこにあるのか」
考古学的な証拠から、というよりも証拠の欠如から、紀元前3000年以降、ワイン・マウンにはほとんど人が住んでいなかったと考えられる。この年代は、ウェールズから東方への大移動が起きたとみられている年代と一致する。「しかし、証拠の不在は、不在の証拠にはなりません」とパーカー・ピアソンは言う。
彼はもう一度プレセリの丘に行き、紀元前3000年ごろに放牧地が再び荒れ地になったことを示す花粉化石を採取したいと考えている。
それができれば、ストーンヘンジが建造された時期に、この地域から人々が去っていったという仮説は一段と説得力を増す。
また、ストーンヘンジの62番の石が、ワイン・マウンの石と一致することを示す決定的な証拠はないとはいえ、地質学者のベビンズとイクサーの調査で、62番の石がワイン・マウンの少し東にある露頭で採取されたことはわかっている。
「この露頭ではまだ、考古学者による調査が行われていません」とベビンズは話す。
(文 ロフ・スミス、写真 ルーベン・ウー、日経ナショナル ジオグラフィック)
出典:ナショナル ジオグラフィック
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